鳥取大学の研究から学ぶ!認知行動療法で吃音の悩みを減らすために役立つ2つの考え方とは
どうも、Markです。
吃音のどもりを減らす、言葉が詰まるのを減らしたい!
それは多くの吃音者の共通の悩み、願いだと思いますし、自分もずっとそれで悩み続けていました。
そのために発声法や呼吸法など色んな方法を試してみました。効果ある人は一定数いますし、そういう研究もあり、実際に改善した人もいるので、否定はしないですが、吃音には色んなタイプの方がいます。
自分はあまり、発声法や呼吸法だけで効果を感じるタイプではなかったので、別のアプローチも試してみました。
その方法の1つが認知行動療法という方法です。この方法で自分は吃音の悩みを減らすことができました。
今回は、そんな自分と同じような吃音のタイプの人で、呼吸法や発声法を試してみたけど、あまり効果を感じられない。心理的なアプローチや認知行動療法に興味があるけど、何をしたらいいのか分からない。
そんな人が認知行動療法とはこういうもので、こうすれば、日々の吃音の悩みを減らすことに役に立つのか!
そんなことが知れるような情報を研究ベースでご紹介できればと考えております。
今回、ご紹介させていただく内容は2015年に鳥取大学の竹田伸也准教授が行った、吃音の青年の就活生1名に対しての認知行動療法の実践に関しての研究です。
この研究では、認知行動療法を使った治療を吃音者の方に行ったことで、吃音の悩みが減り、就活で内定を獲得することができたそうです。
ただ、人数が少なく、研究としてはエビデンスレベルはそこまで高くはないので、これをすれば全てのタイプの吃音の改善に繋がるというものではありません。
ですか、吃音改善、吃音の悩みを減らすための新しい選択肢として、参考になるんじゃないかなと自分の経験からも感じたので、ご紹介させていただければと思います。
今回はその中でも特に吃音の悩みの軽減に役に立ちそうな2つの考え方をご紹介させていただければと思います。
1.認知行動療法とは
2.吃音の悩みを減らすのに役立つ認知行動療法ベースの2つの考え方
3.まとめ
1.認知行動療法とは
そもそも、認知行動療法とは何かということですが、認知行動療法の第一人者である大野先生によると
「現実の受け取り方」や「ものの見方」を認知といいますが、認知に働きかけて、こころのストレスを軽くしていく治療法を「認知療法・認知行動療法」といいます。
認知には、何かの出来事があったときに瞬間的にうかぶ考えやイメージがあり「自動思考」と呼ばれています。
「自動思考」が生まれるとそれによって、いろいろ気持ちが動いたり行動が起こります。ストレスに対して強いこころを育てるためには「自動思考」に気づいて、それに働きかけることが役立ちます。
というのが認知行動療法なのですが、
語弊を恐れずにすごく簡単にまとめると、
自分の考えや思考を疑ってみる。
そのための思考のツールです。
多くの人は無意識に、一定の場面、一定の条件で同じような反応や行動をします。
寝る前に歯磨きをするというは無意識でできる人がほとんどだと思いますが、それぐらい無意識に行われている行動が人はたくさんあります。
南カリフォルニア大学のウェンディーウッド教授の研究によると、人の1日の行動のうち3/1〜2/1は習慣的な行動で占められているそうです。
つまり、人間の行動のうち40%以上が習慣で作られているというぐらい、自分で気づかないほど、習慣が人間にはあります。
その中でも、悪い習慣、嫌な感情や嫌な気分になる、自己嫌悪に陥るものもあります。
その無意識に起こる習慣を、意識的に何がきっかけで起こっているのか、というのを1つずつ分解していき、これが原因だからここを変えよう。
それを具体的に行うためのツールとして、認知行動療法が使われます。
2.吃音の悩みを減らすのに役立つ2つの考え方
では、どうやって吃音の悩みを減らすためにこの認知行動療法を活用すればいいのか?
2015年に鳥取大学の竹田伸也准教授が行った、吃音の青年の就活生1名に対しての認知行動療法の実践に関しての研究報告の具体例から今すぐ使える吃音の悩みを減らす認知行動療法の使い方についてみていきましょう。
まずは結論として、今回の研究から吃音の悩みを減らすために役に立つ考え方は以下の2つです。
①吃音症状は完全にコントロールできないので、思考や考え方をコントロールしてみようと考える。
②どもったら馬鹿にされた、蔑まれたという事実、証拠を探してみる。
では、1つずつご紹介していきます。
①吃音症状は完全にコントロールできないので、思考や考え方をコントロールしてみようと考える。
どもったり、言葉が詰まる症状を減らそう、無くそうと吃音の言語症状だけにアプローチしても、それだけでは改善が難しいということがいくつかの研究や本で言われており、
実際、国立障害者リハビリテーションセンターの院長である森浩一先生が統括されている研究プロジェクトでも、以下のように、成人の吃音者に関して、吃音の症状だけへのアプローチは効果が出にくく、心理的なアプローチも吃音改善には必要だと言われております。
言語訓練としては吃音緩和法と流暢性形成法との組み合わせ(統合法)がよく使われるが,これらのみで改善する症例は少なく,過半数では社交不安障害などの心理面の評価と対応も必要になる。社交不安障害には薬物療法も行われるが,認知行動療法が奏功する。
実際、今回の認知行動療法の研究の対象となった吃音の就活生(Aさん)、吃音を治そうと意識すればするほど、吃音が悪化するという現象が見られたそうです。
まず、Aさんはどんな症状、特性があったかというと、発音する際に最初の第一声が出にくくなる、難発でした。誰の前でもどもりますが、親しい友人や恋人の前であれば、あまりどもらなかったそうです。
どもりそうになると、他の言葉に言い換えたり、言おうとしたことを忘れたふりをするなど、とにかく、吃音が目立たないようにしていたそうです。
特に苦手な場面は、実習中の患者の名前を呼ぶ場面と就職活動。他の場面なら避けることはできますが、患者の名前は避けられないし、他のものと違い、自分のやりたいことであり、避けたくないのに避けてしまうのがしんどい。
実際、Aさんは実習中に患者の名前を呼ぶ必要がある場面になると、周りから変なやつ、気持ち悪い、そのくらいのこともできないのかと思われると思っていたそうです。
そこで、Aさんは自分なりに吃音を改善するために、
・話そうとする際に第一声を伸ばして発音する
・滑らかに話せている自分をイメージする
などを行いました。
ですが、そういう努力を行うことで、吃らずに喋ろうとAさんが意識すればするほど、「自分の話し方は周りからどう見られているのだろう」と考えてしまい、自分の話し方に注目しやすくなり、その結果、対人場面での不安と緊張が増して、話そうとする際に吃音症状が出やすくなっていたそうです。
そこで、Aさんのニーズである「就職活動をして、医療機関に就職すること。そのためには、就職への不安を軽くしたい」
このニーズを叶えるために、就職への不安を維持する原因となっている考え方と行動の2つを変えるために、
1.不安を高める考え方を変えること
2.回避してしまう対人場面での発話を避けない
この2つの方法を行いました。
そのために、吃音症状自体はコントロールは難しいですが、その周辺の回避行動や認知をコントロールすることは可能であり、それによって不安を軽くし、吃音に縛られずに自分がしたいことをするようにしました。
ここで、対人場面の回避を減らすために、「人前でどもりたくない」というAさんの考えを尊重して、言葉の言い換えはしても良いとしました。言葉の言い換えは、対人場面で発話しようという努力と言えるので、Aさんの吃音に囚われずに、やりたいことをするというのに近づくので、言い換えはしてもいいとしました。
このように、話し方をコントロールするのではなく、その苦手な場面でどう思考して、どう行動するのか、そこを変えようと意識しました。
そのために、まずは苦手な場面を回避しない。
それが、自分の話し方に意識が行き過ぎてしまい、周りから自分の話し方をどう思われるのかを考えすぎ、対人場面での不安と緊張が増して、吃音症状が出て、しんどいという悪循環から抜け出すきっかけになりました。
②どもったら馬鹿にされた、蔑まれたという事実、証拠を探してみる。
ですが、苦手な場面を回避しないだけではこれまでと同じように、話し方に意識が向く可能性があります。
そこで、この研究では、自分の吃音に対するマイナスな考えや思考に根拠はあるのか?を考えるということをしました。
具体的には、Aさんは患者を呼ぶ場面で、「周りから、変なやつ、気持ち悪い、そのくらいのこともできないのか」と思われると考えていました。
また、そのように、患者の名前を呼ぶことの回避を重ねることで、「自分には医療への就職は無理だ」と考えてしまい、就職活動をずっと避けていました。
そこでこの研究では、他の人からの否定的な吃音に対する評価が本当なのか?根拠があるのかどうかを確かめるために、実際に人前で発言した後に、相手の様子を注意深く観察することをしました。
社会的な場面でどもってみて、吃音のことを直接気持ち悪がっていたり、蔑んだ言葉が見られるがどうか、話が終わっていないのに相手がその場から離れるなど、
ネガティブな評価と思われる態度をAさんとともに治療者の方が挙げて、それが実際に見られるかどうかを日常生活での課題としました。
これをより本格的にやる方法として、思考記録表というのがあり、今回の研究ではAさんが吃音に対して他人からネガティブな評価を感じたと思ったら、その都度、この思考記録表に記入して、自分のマイナスな感情に根拠はあるのかどうかを確認しました。
思考記録表とは、自分の中でマイナスな感情になった場面で、その考えは事実なのか、それとも思い込みなのかどうかを確認するためのツールです。以下の6つの内容に沿って、自分の考えを分解します。
詳しい内容は今回、省略しますが、興味がある人は以下のURLから確認してみてください!
1.いつ、どこで起きたのか?
2.どんな出来事、どんな状況だったのか?
3.その状況や出来事から、どんな思考が湧いたのか?
4.その思考が湧いた時、どんな感情になったのか?
5.その思考とは、別の考え方をするとしたら?
6. その別の思考で考えられたら、どんな感情になるのか?
うつや不安をやわらげる「かんたんコラム法」 | このサイトでできること | こころのスキルアップ・トレーニング
このように、不安が高まる考え方を変えること、回避してしまう対人場面を避けないということを、認知行動療法を用いて、実践することで、Aさんは医療機関から内定を獲得することができました。
他にも、回避していた場面でも発話に挑戦し、友達への吃音のカミングアウトや実習中に患者の名前を呼ぶなどを行い、「言う前に躊躇はあったが、回避はますます苦手な意識を強め、自分がしたいことを遠ざけると思うと、それが後押しになって言えた」
実践してみた結果「どもることは別に恥ずかしいことではないと思う」と友達はAさんに伝え、患者も特にAさんが気になるような態度を示していなかったそうです。
また、吃音に対するネガティヴな評価については、「そう思う根拠が案外ないことに気づいた。反面、そのような考えと矛盾することが多いのも分かった。吃音があってもなくても、自分がしたいことをするのが大事だと合点がいった」
こうした、研究で治療を受け続けた結果、Aさんは「吃音が治って不安なく働くのと、吃音があっても恥ずかしいことではなく、どもりながら働くのは一緒だと思った」と話して、日常生活の中で吃音について考える時間が減ったと話した。
さらに就労してから1ヶ月後、Aさんに話を聞くと、「どもりはそんなに恥ずかしいことではない。治らんでもいいと思えた。どもりはそれ自体よりもそれをどう捉えるのかという自分の中の問題なんだと気づいた」と話したそうです。
3.まとめ
今回の研究をまとめると、吃音の症状、どもる話し方を完全にコントロールするのは難しいが、その苦手な場面での吃音に対する自分の思考や行動はコントロールできる。
苦手な場面を回避することで、吃音が悪化する悪循環に陥るため、苦手な場面を回避しないように、言い換えを駆使する。
そうして、苦手な場面を避けず、発話を行う中で、自分の吃音に対するネガティブな思考や考え方が本当なのか?それに証拠はあるのか?というのを、吃音で嫌な気持ちやマイナスな感情になったら、確認する。
この研究自体は2015年なので少し古いですが、具体例が豊富だったので、参考になると思いました。
全部試してみるのは大変だと思いますので、今回、ご紹介した中でも、自分の吃音に対するマイナスな感情や思考は本物か?それに証拠はあるのか?ということを考えるだけでも、是非試してみてください!
より実践的にやりたい方は、思考記録表をネットでダウンロードしてやってみるのもオススメです。
より認知行動療法を学んでみたいという方は漫画や吃音に特化した認知行動療法の本もありますので、読んでみて下さい。この漫画に詳しく、思考記録表を実践する方法も書いてあります。
今後も吃音の悩みを減らすのに役に立ちそうな研究などをご紹介できればと思っております。
次回は、これまで50人以上インタビューした中での当事者の成功体験や改善のきっかけを研究と紐付けて、具体例から研究の実践について考えてみたり、認知行動療法やACT、セルフコンパッションなどの心理的なアプローチの研究から吃音の悩みを減らすのに役に立ちそうな情報などをご紹介します!
一人ひとり、効果のあるものは違うので、色んな選択肢、吃音の悩みを減らすヒントを研究ベースで発信していき、研究がよく分からない人でも分かりやすく、すぐに使えるような形で発信していければと思っております!